脊髄終糸症候群(Tight Filum Terminale; 以下TFT)と腰椎椎間板ヘルニア(以下LDH)はともに腰痛と下肢痛を主訴とし20~30代に好発するためその鑑別が必要である。しかしながらTFTは従来診断方法が確立されていなかったために、しばしば見逃され治療されずに放置されていたのが現状である。

 

■臨床症状

1) 腰痛:TFT、LDHともに体幹の前屈制限が見られ前屈位で腰痛が増強する傾向がある。LDHでは座位を続けると腰痛が悪化するがTFTではその傾向は少ない。
2) 下肢痛:TFTは大腿前面、下腿後面の痛みが多くしばしば両側性である。LDHでは片側の神経根支配域に一致した痛みであることが多い。
3) 下肢感覚障害:TFTでは皮膚髄節に一致しない範囲に感覚障害が見られしばしば両側性であり、上肢のしびれ感を伴うことがある。LDHでは障害神経根支配域に一致した範囲に感覚障害を認める。
4) 下肢筋力低下:TFTでは発症早期に筋力低下を来すことは少ないが、経過の長い症例では大腿以下に筋力低下を認めることがあり両側性に見られることがある。LDHでは多くは片側のL5またはS1神経根の支配筋に認める。
5) 膀胱直腸障害:TFTでは約90%に頻尿があり多くは日中8回以上夜間2回以上排尿があるという。またしばしば便秘、下痢なども認める。LDHでは膀胱直腸障害を来すことは少なく鑑別点として重要である。
6) TFT誘発テスト: 体幹の最大前屈位で頚椎を前屈すると腰痛や下肢痛が誘発され、頚椎のみを後屈すると痛みが軽減または消失するものを陽性とした。TFTでは98%に、LDHでは25%に認めた。
7) 下肢腱反射:TFTでは約40%に下肢腱反射の亢進を認めたがLDHでは亢進することはない。

1.画像所見

1) MRI:TFTでは通常椎間板の膨隆は認めない。頚椎、胸椎のMRIで脊髄が脊柱彎曲の最短距離を通るいわゆるショートカットサインが見られる。Axial Viewでは硬膜管内の背側寄りに肥厚した終糸の断面を認めることがあるが通常は点状であり診断的意義は低い。LDHでは腰椎に椎間板膨隆を認め臨床症状と一致すれば診断は比較的容易である。
2) 単純エックス線撮影:TFTではしばしば脊柱側彎、spina bifida occlutaを認める。 疼痛性側彎が見られることがあるがspina bifida occlutaの頻度ははるかに少ない。

20~30代の若い年代で腰痛や下肢痛を訴える場合はまずLDHが疑われるが、MRIで椎間板膨隆を認めないとき診断に窮することがある。このような症例ではTFTを考慮に入れる必要があり、臨床的には頻尿の有無、下肢腱反射の亢進、TFT誘発テストなどが鑑別診断に有用である。TFTの可能性があるときは頚椎、胸椎のMRIが参考になり、磁気刺激下肢筋電図検査により体幹前屈時の遷時が遅延することや、膀胱内圧曲線で神経因性膀胱が証明されればさらに診断が確実となる。コルセットや鎮痛剤などの保存的治療で改善が得られない時は終糸切離術が有効である。

参考:
駒形正志ほか;臨床整形外科、1996
遠藤健司ほか;別冊整形外科50 ,2006