難治性のむち打ち損傷は、就業困難、抑うつ、不眠などが発生し、交通事故被害者だけでなくご家族まで巻き込んだ不幸な交通事故後遺症です。そのため、何とかして難治性とならないための、早期からの正しい治療方針の確定が重要であると言えます。

全体像
軽微な外傷で発生した外傷性の慢性疼痛が難治性のむち打ち損傷の病態となることが多い。
安静の排除と早期社会復帰によって、慢性疼痛に移行してしまうことを防ぐ必要がある。

病態と診断
画像上、外傷性の組織損傷が同定できることは少ない、外傷性疼痛障害であることが多い。局所の頸部痛のみの場合が頸椎捻挫型であるが、神経根症状、脊髄症状など神経症状を伴うこともある(神経根型、脊髄症型)。脊髄症状を伴う場合は、むち打ち損傷で無く非骨傷性頸髄損傷として扱われるべきである。眼症状(眼痛、眼球運動障害)後頭部痛などのGOT症候群、肩こり、めまい、吐き気などの自律神経障害や、神経根支配と一致しない上肢のしびれを主訴とする胸郭出口症候群、起立性頭痛を主訴とする脳脊髄液減少症を伴うこともある。四肢神経症状を伴うことは少なく、疼痛部位と疼痛誘発動作をもとにして診断することが大切である。単純X線が有用であることは少なく、頸椎MRI,脳MRIが鑑別診断として有用である。また、上肢の運動麻痺が改善している中心性頸髄損傷は、外傷性頸部症候群の範疇として扱われるべきである。

治療方針
急性期には、疼痛部位と圧痛、疼痛誘発動作を明確にして、疼痛処置を行う。頸椎カラーは急性期の数日間のみとして、長期固定による頸椎椎間関節の拘縮や頸椎支持筋の萎縮を防止するようにする。大きな組織損傷が無い場合には安静の排除と早期社会復帰を促しながら、慢性疼痛に移行しないよう留意して治療にあたることが重要である。自律神経症状を伴う場合には、運動療法は特に重要となる。ただし、急性期より起立性頭痛が発生する場合には、外傷による脳脊髄液減少症の可能性も考慮して、数日間の安静臥床が必要となる。画像所見と一致した重篤な神経根症状や脊髄症状がある場合には手術適応となる。

後遺症書類
交通事故による組織損傷による障害は、長くても通常3か月で沈静化します。慢性化の治療期間も含めたとしても、新たな検査や治療の必要が無い場合には通常受傷後6か月において後遺症書類作成して交通事故扱いを終了とするのが適当でしょう。

処方例
頸部痛のみで上肢しびれが無い場合
Px)ロキソプロフェン3T
ムコスタ 3T     3x  7TD
モーラステープ(100) 3P

上肢しびれがある場合
Px)ロキソプロフェン3T
ムコスタ 3T     3x  7TD
リリカ(25)2T     2x 7TD
モーラステープ(100) 3P
頭痛がある場合 SG顆粒 屯用 10P 1日3回まで

3か月以上して慢性化した場合
トラマール(10)2T
ノイロトロピン 4T 2x
リリカ(75) 2T   2x
3か月以上して慢性化し 抑うつ傾向がある場合
サインバルタ1T 1x (就寝前)を併用

参考文献:
むち打ち損傷ハンドブック 第2版(丸善出版):遠藤健司著
Does the presence of sensory hypersensitivity influence outcomesof physical rehabilitation for chronic whiplash? – A preliminary RCT : G. Jull a, M. Sterling a, J. Kenardy b, E. Beller. Pain 129 (2007) 28–34
Generalised muscular hyperalgesia in chronic whiplash syndrome : Mona Koelbaek Johansena, Thomas Graven-Nielsenb, Anders Schou Olesenc, Lars Arendt-Nielsenb. Pain 83 (1999) 229-234
Sensory hypersensitivity occurs soon after whiplash injury and is associated with poor recovery : Michele Sterlinga, Gwendolen Julla, Bill Vicenzinoa, Justin Kenardyb : Pain 104 (2003) 509–517

東京医科大学 整形外科 遠藤健司