ヘルニコアとは?
ヘルニコア(コンドリアーゼ)は、腰椎椎間板ヘルニアに対して日本で開発された新薬です。局所麻酔で椎間板を構成する髄核を融解することで、脱出したヘルニアの圧を下げ疼痛を緩和させるという画期的薬剤です。適応は、適応:内服、神経根ブロックで効果が無かった、後縦靭帯下脱出ヘルニアで、初回ヘルニアのみ使用することができます。この治療はアスリートやスポーツ愛好家の皆様に対しても良い選択肢であると考えています。アスリートに怪我やスポーツ障害が発症した場合は、最短かつ再発のない復帰を目指して治療を行います。しかし、腰椎椎間板ヘルニアの保存的治療では、症状コントロールに時間を要する可能性があり、復帰までの治療期間を定めることが難しいです。また、手術治療では内視鏡手術が普及していますが、少なからず筋組織への侵襲があります。コンドリアーゼ治療では、筋組織への侵襲なく治療を行うことが可能であり、比較的早期から症状改善が期待できるため、過度な安静による筋力低下を防ぎ、リハビリを開始することができます。また、手術治療で発生するような重篤な合併症の報告もなく、安全かつ低侵襲に、高い有効性が期待できる治療です。
現在、東京医科大学整形外科では、スポーツ班と脊椎班が協力して、アスリートに対する腰椎椎間板ヘルニアの治療を行っており、コンドリアーゼ治療を選択肢の一つとして提案しています。腰椎椎間板ヘルニアを患っているアスリート並びにスポーツ愛好家の方で、症状のコントロールに悩んでいる方、手術治療を回避したいと考えている方は是非一度当院へご相談ください。
東京医大では、本院にて2018年11月より治療が開始され、2022年8月までで150例、八王子医療センターで50例、合計200例の豊富な経験に基づいた治療が行われます。
当院では、治験より早期にヘルニコアを導入し、日本経済新聞でも下記紹介されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO6886080005022021TCC000/
海外では、1982年よりタンパク分解酵素のキモパパインを椎間板の髄核内に直接注入し、椎間板内圧を減少させる椎間板内酵素注入療法(化学的髄核融解術)が実施されていましたが、アナフィラキシーやたんぱく質を分解してしまうため、神経障害や重度の腰痛などの副作用発現により販売中止となっていました。
今回、開発されたコンドリアーゼは、タンパク質を分解せずに椎間板内髄核中の主な保水成分プロテオグリカンを構成するグリコサミノグリカン(主にコンドロイチン硫酸)のみを分解するため安全で、プロテオグリカンの保水能を低下させる特性を有しています。そのため、椎間板内圧が低下しヘルニアによる神経根圧迫が軽減され、臨床症状(下肢痛、腰痛など)が改善します。国内第3相試験では、主要評価項目の最悪時下肢痛の変化量(VAS)などにおいて有意な改善が認められ、有効性と忍容性が確認されました。しかし、脱出が少ないもの、ヘルニアが非連続のものは効果が少なく適応とならないので注意が必要です。東京医大では、発売前より、麻酔科大瀬戸教授による治験も参加しており、整形外科、麻酔科で施行することができます。手術を回避できる可能性がある薬剤としての期待がよせられています。
ヘルニア治療について
腰椎椎間板ヘルニアは、多くは自然に吸収されるため、手術をしなくとも3か月程度で自然に改善することが多い疾患です。そのため、初期は、足の麻痺や尿の障害などがでなければ、ブロックや内服、理学療法などの疼痛処置をしながら自然軽快を待つのが最も合理的と言えます。しかし、中にはヘルニア自体が硬く自然吸収されないものが存在します。今までは、レーザーや内視鏡手術といった治療が行われていましたが、2018年4月から。局所麻酔で椎間板を構成する髄核を融解することで、脱出したヘルニアの圧を下げ疼痛を緩和させるヘルニコア(コンドリアーゼ)が開発され臨床での使用が許可されました。適応は、適応:内服、神経根ブロックで効果が無かった、後縦靭帯下脱出ヘルニアで、レーザーと異なり保険適応され、またヘルニア摘出術より手術費用も少なくてすみます。即効性は少ないですが、侵襲が少ないのが特徴です。保存的治療と手術治療の中間的存在と考えることができます。新規治療なので、脊椎外科の専門医のいる施設で行うことが義務付けられています。
現時点の当院での120例の治療結果では、80%以上の人が手術を避けることができました。
ヘルニコアに関する最近の知見
1)ヘルニコア治療と、内視鏡治療(MED)の復職までの期間;ヘルニコアでは平均4日、MEDが平均9日であった(藤本ら:日本脊椎脊髄病学会2021年発表)。
2)ヘルニコア治療後、若い人では椎間板高の復元が確認された(坂野ら:日本腰痛学会2021年発表)。
3)ヘルニコア注入後、腰椎の動きが改善した(山崎ら:日本腰痛学会2021年発表)。
4)コンドリアーゼ(ヘルニコア)180例での症例で有効率は81.6%であった(大下ら:日本脊椎脊髄病学会2021年発表)。
5)BMI30以上の肥満症例に対する症例でもヘルニコアの効果があった(高谷ら:日本腰痛学会2021年発表)。
6)コンドリアーゼ注入後翌日からNRS2以上の改善が43%認めた(遠藤宏ら:日本整形外科学会2021年発表)
7)コンドリアーゼ治療は、早期社会復帰、低侵襲、入院期間の短縮という点で優れている。
後縦靭帯下型ヘルニアで保存的治療が無効な症例に対して、保存的治療と手術的治療の中間的治療として有用 (金澤ら:整形外科72,2021)
ヘルニコア FAQ
Q1) すべてのヘルニアに適応がありますか?
A1) ヘルニアの出かたによって効果が異なるため、脊椎専門医による診断が必要です
Q2) ヘルニコアは何回でも使用することができますか?
A2) ヘルニコアはアレルギーの危険があるため、一生に1回しかできません。
Q3) ヘルニコアが効果がない場合はどうなりますか?
A3) ブロック治療を追加します。しかし、効果がない場合は手術が必要になることがあります。
Q4) ヘルニコア注射後すぐに良くなりますか?
A4) 3か月かかる人もいますが、当院での80例の治療結果では、70%の人が2週間以内に少しずつ良くなっていきました。
Q5) 若くない人でも適応はありますか?
A5) 当院で行った70歳以上の方でも、ヘルニアのタイプによって効果がありました。専門医に相談してください。
━ 腰椎間板ヘルニアの新しい治療と選択肢 ━ 下記資料をご参照下さい。
『ヘルニコアを用いた化学的髄核融解術(椎間板内酵素注入療法)』(PDF)
ヘルニコア治療については下記資料をご参照下さい。
『ヘルニコアの治療を受けられる方へ』(PDF)
━受診の流れについては下記からご確認下さい━
https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/raiin/jyushin/gairai.html
━神奈川、静岡県在住の方へ(熱海所記念病院)━
https://atami-tokoro.jp/guide/division/orthopedics/hernicore/
━福島、茨城県在住の方へ(松尾病院)━
https://matsuo-iwaki.or.jp/info/seikei-he/
『国際学会での公演』(PDF)
腰椎椎間板注射療法(髄核)融解術(ヘルニコア、コンドリアーゼ)の治療経過②の記事へジャンプ
執筆者:遠藤健司、関 健、西村浩輔